デザインアワード
2021
審査員コメント
家族の個性や価値観が際立つ
住まいが続々
今年度のデザインアワードは、長時間自宅で過ごす生活が定着して、住まいに「働く」「楽しむ」という要素が
必須になりつつあると強く感じられました。審査員の皆さんに傾向やポイントなどを伺います。
家族みんなの想いが
詰まった住まいづくりへ
自宅で仕事をすることが増え、住まいに働き手の意見も多く反映されるようになったと感じました。家に対する興味は、もう家族の属性に関係ないのだなと。また子どもの独立をきっかけに、夫婦ふたりの老後の暮らしに向けたリノベーションも多くみられました。年を重ねるほどリフォーム会社とのやりとりや工事中の対応など体力的に大変でしょうから、非常によいタイミングですね。
建築家 ㈱コンパス建築工房 代表取締役西濵 浩次さん
建築家 ㈱コンパス建築工房
代表取締役西濵 浩次さん
「私の好き」を大切にした
個性的な住まいが多かった
家に向き合うことが一般的になったという印象です。個性的で「私はこれが好き」という想いが全面的に出ている住まいが増えましたね。どんな人にも合うように仕様や設備が工夫された「誰にでも住みやすい家」もよい家ですが、他者には多少不便になっても自分の好きやこだわりを追求した「私だけが住みやすい家」もよい家だと実感しました。
「住まいの設計」編集長立石 史博さん
「住まいの設計」
編集長立石 史博さん
「どう暮らそうか」
真剣に向き合う姿が見えた
昨年はコロナ禍で、夫婦が共に仕事をするのによい距離感や、子どもが勉強するのによい環境について考えたリノベーションが目立ちました。今年は、その点をさらに深く掘り下げ「ここで、どう暮らそうか」と真剣に向き合う姿が見えてきました。
インテリアデザイナー
interior design STRASSE 代表柳生 千恵さん
インテリアデザイナー
interior design STRASSE
代表柳生 千恵さん
家での滞在“場所”が変わり
居心地への探求も進化
家で過ごすことが増え、家の中での家族の滞在場所が変わりました。そうなるとプランニング時のゾーニングに大きく影響します。そこで、あらためて断熱性や採光はどうしようかと、過ごし方の変化に一歩踏み込んで練られたプランが多くありました。またお客様に寄り添って練られたプランなど、背景のドラマに感動するものもありました。
パナソニック ハウジングソリューションズ株式会社
イノベーション本部
デザイン・コミュニケーションセンター 所長渡辺 雅純さん
パナソニック ハウジングソリューションズ株式会社
イノベーション本部
デザイン・
コミュニケーションセンター
所長渡辺 雅純さん
細部までこだわる
個性豊かな住まいが増えた
以前は、北欧調や古民家再生など特定のテーマが人気だった時期もありましたが、今回はそのような固有のテーマとしての傾向は、むしろ少なかったです。
これは「自分たちが本当に好きなものは何か」「自分たちがどうやったら幸せに暮らせるか」と、流行に左右されず真剣に住まいに向き合った結果ではないでしょうか。まさに人生のクオリティを上げるためのリフォームといった印象です。
またディテールを大切する姿も見えてきました。施工の納まりというディテールではなく、「この場所に、この食器をしまいたい」「ここにフライパンを立てたい」など、生活視点のディテール。ちょっとした自分だけのこだわりです。自宅で長く過ごすようになり、それだけ住まいの細部にまで、目を向ける方が増えたのだと考えられます。また趣味室は、家族で共有できるものが多く、シアタールームやトレーニングルームが増えた点では、家に求められる機能が具体的になり、多様化していることがわかりました。
コミュニケーションが密に。
プロセス自体も楽しい
応募シートで顕著だったのは、施主様と工務店担当者とのよい交流関係があると伺える内容が多かったことです。家づくりのプロセス自体もリフォームの一部として、積極的に楽しんだ方が多くおられたことは、喜ばしいことです。その点は、PRC店の担当者の皆様の打合せ力のたまものです。多様化する個人のちょっとした「好き」や「こだわり」を、工務店担当者が丁寧に拾い上げ、実現するために努力されている様子も応募シートから浮かび上がってきました。
中には、子どもが幼い頃、子どもが巣立ってからと、ライフステージごとにリフォームを同じ工務店に何度か依頼されるなど、長くお付き合いが続いているケースもありました。地元に頼りになる工務店があるという信頼感は、まさに日本の住宅にまつわる環境が成熟してきたのだと感じさせます。
将来どう暮らすか、
終の住み処という視点
昔は、設備を新しくしたり、劣化した内装をキレイにしたり、部屋数を増やしたりと機能面の充実が目的になる例が中心でしたが、この数年は「どのように過ごすか」「どのように住まうか」と目的も変わってきました。
夫婦ふたりから、子どもが誕生して子育て期に、さらに子どもが成人して、巣立ち、また夫婦ふたりに戻るというように、ライフステージは刻々と変化します。また施設ではなく、将来、自宅で家族に看取られたいという希望を持つ方もいるでしょう。さらに個人の好きなものや興味関心も長い人生では変わりえます。そうした変化に、おおらかに対応できる住まいが、これから主流になるのではないでしょうか。
これからは100%完成した住宅という建物に、住み手が暮らしを合せていくのではなく、7割完成した住宅に残りの3割は自分たちで暮らしながら加えていったり、不要になった場合は減らしたりできる。そんな足し算と引き算がしやすい住宅こそが重要なのかもしれません。