築80年が経過していた大きな蔵のあるY様邸。老朽化や周辺環境の変化にともない、全面的に建替を行いました。その鍵となったのは「曳家」という技術。建物を土台から丸ごと持ち上げて移動する、ダイナミックかつ伝統的な建築工法です。この曳家によって蔵の位置を移動し、住居部分と一体化。「元々は農機具庫として使われていましたが、最近は活用していませんでした」という蔵は、先祖代々受け継がれてきたその面影を残したまま、住まいの一部として生まれ変わったのです。2階建てから平家に変更した住居部分も、仕切りのない開放的なリビングダイニングが広がり、心地よさがぐっと増しました。お部屋が見渡せ、会話しながら料理のできる対面キッチンは、奥様の大のお気に入りです。
蔵も、住居とは別に来客用の玄関を新設し、1階部分は仏間を兼ねた和室、2階は家族構成の変化にも対応できる子ども部屋を設けました。居住性抜群です。ただ住めるようになっただけではなく、そこには、旧家の面影を今に伝えるさまざまな工夫が。和室にはかつての住まいを長年支えてきた大黒柱を利用。お部屋に風格を与えています。欄間も新たに磨き上げ、新たな表情が生まれました。床の間や玄関框には旧家のケヤキ材を再利用。曲がりや欠けをあえて残した既存の柱や梁も「味わいですね」と大満足のY様。歴史ある家の記憶を受け継ぎながら、新しい時を刻むために生まれ変わった住まいの姿に大きくうなずいておられました。